岩手県岩泉町で栽培されている安家地大根は、赤紫色・辛さ・緻密な繊維質を特徴とする伝統野菜です。赤紫色はアントシアニン、カラミ成分は含硫化合物のイソチオシアネートで、これらの成分が作物の特徴を反映しています。抗酸化能も通常の青首大根よりもかなり高く、赤い色の旬野菜が少なくなる秋から冬にかけてのアンチエイジング食材としておすすめの大根です。近年、辛みや苦みのない大根が好まれる傾向にあり、個性的な在来の大根は流通から姿をけしたものも数知れません。
生薬においては野生種がより薬効を持ち、さらに「いじめないといいものができない」という言葉があるよう、大根でも同様に快適な環境下で肥料を多くやっても根が太るだけで成分は少ないとされています。最近は野菜全般で栄養価や機能性成分の低下が言われていて、強い品種・強い育て方をした在来作物を取り入れることの健康的なメリットが再確認されています。安家地大根は健康的な食材としての価値をもつ大根でもあるのです。
(在来作物は大きさや色などの形質に、かなりのばらつきが見られます)
食の機能性には
- 1次機能 栄養機能
- 2次機能 嗜好・食感機能
- 3次機能 健康性機能・生体調節機能
があります。
美味しく食べられること、身体を構成する成分になること、身体を動かしたりするエネルギーに変換されること、さらに健康維持や疾病予防まで含まれます。
大根
店頭でみかける大根は、ほとんどが形・色・味・風味も均一であるF1品種の青首大根です。一方、地方には個性あふれる在来品種の大根が多く残されていて、色も形も風味(特にカラミ)もそれぞれ個性的です。食品成分表に記載されている栄養価だけですと、カリウムと食物繊維がやや多いといった程度ですが、大根の力(健康への寄与)はそれだけではありません。外見や風味に着目する必要があります。
大根の機能性成分
大根の味わいには大きく、甘さ、辛さ、少々の苦みが反映されています。甘さは糖質、辛さはイソチオシアネート、苦みはタンニンの存在によるものです。また大根によっては赤や紫の色素を持ち、これはアントシアニンを反映しています。辛み、苦み、色は大根の持つフィトケミカルであり、また機能性成分でもあります。
辛みは含流化合物のイソチオシアネートです。作物の中では配糖体で存在していますが、おろしにすることにより細胞壁内に存在する酵素の存在で糖がとれ、揮発性で鼻にぬける辛み成分となります。腸管から配糖体のまま吸収されるもの、配糖体が取れたアグリコンで吸収されるもの、また吸収後の代謝過程で変化した成分など様々、どの成分がどのように作用しているかは未解明な点も多い様です。薬膳や漢方などで胃腸症状、呼吸器症状を緩和するとされています。
苦みはタンニンを反映しています。ポリフェノールの一つで、脱水作用、収斂作用があり、果物や根菜類に含まれています。このため品種によっては食べすぎると便秘する場合も見うけられます。
アントシアニンは赤や紫の果物などにも含まれる色素です。抗酸化力が強くきれいな色合いから食品加工にも応用されています。
酵素
大根には消化酵素として働くジアスターゼが含まれていて、炭水化物の消化を助けてくれます。体内の消化酵素にはたんぱく質をアミノ酸に分解するプロテアーゼ、脂肪を脂肪酸に分解するリパーゼがありますが、例えばお餅を食べたときに大根おろしを一緒にいただくと胸やけしにくいといわれています。なお、酵素は熱で変性しますから加熱した食品から酵素の働きを得ることはできません。
そのほか発酵食品や生の野菜・果物にもさまざまな酵素が含まれていますが、ひとがそういった食品の酵素を摂取しても、その酵素を体内で増やすことには直結しません。食品中の酵素が消化・吸収・代謝されて、その結果、ひとの身体でどのように役立つかは不明です。
ひとの酵素は沢山あり(約4000種類ともいわれています)、食べ物の吸収、皮膚の新陳代謝、血液の循環、免疫力を高める、有害物質の除去など体のたくさんの働きにかかわっています。ひとの酵素は体内で作られます。食品から「酵素を摂取する」ということではなく、酵素の材料や酵素の働きを補助する成分を「食べることで補う」と考えると良いでしょう。
食と健康維持・疾病予防は多因子です。また少なからず身体へのマイナスの影響(リスク)を持っています。「一つの成分が○○に効果を示す」という考え方ではなく、四季を通じてさまざまな食事を摂取し、リスクを分散するという視点を持つことが大事です。